こんにちは 「猫さんて誰だ」 見て来ましたか?

ここは、金子貞雄が「作風」以外に発表した作品掲載の頁です。

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あしたが見える――「うた新聞」平成302月号より転載

 

関係のしたしきなりに悩ましき神社のうらの罠蟻ぢごく

 

このことは言はずに墓場へ持ちゆくとふ私にだけの秘密の話

 

うつうつの顔あげて視る西の空あしたが見えるごとく晴れやか

 

意を尽くさぬ短き文にムッとくるパソコンメールに絵文字で返す

 

進化しても良ささうなほどに歳とりし猫がいまだに喋らずにゐる

 

 

 

色鳥の園  2017.5.20埼玉文芸叢書「彩」より転載

 

豪族の家に生まれて宿本陣つとめし当主の庭園巡る

 

回遊式庭園望む数寄屋にて竹の濡れ縁を月見台とす

 

月見台より茶室へ続く飛び石は天柱石とふ朝鮮の石

 

茶室よりややに離れし待合所面影人らその時を待つ

 

池の辺の樹蔭のあぢさゐ乾きたる花まりのまま冬に入りゆく

 

さはがしき心のままに来て観れば深緑の木木静水の池

 

深緑の影なす色に見分け難く玉の池深くうろくづ動く

 

てんでんのやうで緩やかな群として池のあちらへ鯉移りゆく

 

日陰より日向に出でし池の鯉尾びれひと振り向きを変へたり

 

玉の池にややに沈める木の小舟椎の古木に寄せて繋がる

 

樹樹の間を抜けて貧しき冬の陽のあな池底の土に耀く

 

悠悠の翁のやうな池の鯉冬の陽のさすあたりをゆらり

 

許すとは受け容れること玉の池に棲める真鯉の命数を問ふ

 

昼間(ひる)暗き古園の小径行きなづむ 世俗に遠き色鳥(いろどり)のこゑ

 

木漏れ日を頼む木蔭の山茶花の高き細枝に幾花かかぐ

 

猛暑日に散水してゐし面影も顕ちくる冬の熊谷草に

 

戦火にも耐へて聳えるくすの樹を光の中にふり仰ぎ見る

 

ヒヨドリの鋭(と)く高きこゑ楠(くすのき)のこずゑにありて穏やかな冬

 

木漏れ日を浴びつつ想(おも)ふ常盤木(ときはぎ)を選りて植ゑたる当主の心

 

手をとりて古園出で来し若者に冬の澄みたる光あつまる

 

 

 

利根悠悠 「短歌研究」2017年5月号より転載

 

ママチャリでの走行十年一万㎞悠悠閑閑戦火に遠し

 

人間は自然を許さず利根川の築堤しばらく真直つづく

 

きさらぎの陽に映え絹布ひとすぢを晒せるごとき坂東太郎

 

自転車にて探し来しとふ女学生荻野吟子の像を両手にさする

 

うらうらと照れる春日に耀きて天のまほらをグライダー舞ふ

 

癌を病み眼を病み人の死にもあひに幾度渡りし利根刀水橋

利根対岸の飛び地の山芋農民歌人田中佳宏若すぎし死に

 

 

 

中 庸  2017.4埼玉文芸家集団会報第28号より転載

 

右の頰をうちたるものを許しつつ左の頰を出すまでの間

 

心にはいささかの傷負ひつつもひそひそ話夢と聞きをり

 

飲用をいざなふ札を掲げたるゆうすいもある山の径行く

 

齋藤重郎氏二首

 

ほほゑみと中庸をもて生きゐるは老の鑑と導かれ来し

 

勲四等瑞宝章を胸に飾りゑまひかすかに奥様に添ふ

 

 

 

 

一本榎――熊谷市塩  2017.3.20『文芸熊谷』第5号より転載

 

いたづらに駆けて来しかな威風ある一本榎に立ち止まりたり

 

一本榎の地際の幹のふた分れ象の子立ちて組み合ふごとし

 

立ちしやがみ寄りてさかりて写真家は一本榎の百態を撮る

 

田仕事に疲れし人らあひよりて一本榎の日かげにいこふ

 

何はともあれ今を大事に生きてゆく枝葉ゆたかな一本榎

 

 

 

 

酉の市  現代短歌新聞 2017.1月号より転載

 

戦災の類焼とどめし宮の杜酉の市の手締めに沸けり

 

拍子木に家内安全手拍子も加はり商売繁盛繁盛繁盛

 

いちご飴を口に銜へて手拍子に喜びいさむ間なく三歳

 

酉の市ここより一年始まると三十万円の熊手も売れる

 

酉の市施主を囲みし手締め終へ熊手笑顔に引き取られゆく 

 

 

 

 

青淵立像――H28.12.1「熊谷短歌会会報」第18号より転載

 

深谷市民の熱き思ひは誠至堂解体三日前の英断

 

論語を手に上毛三山遠望する青淵立像の思慮深き容貌

 

今様の数十倍と案内人大きさを説く青淵池と青淵翁の

 

渡欧せしは二十七歳にして庭前の青淵立像美男子におはす

 

日本煉瓦製造会社株金負担人澁澤榮一金五万圓との証跡あり

 

青淵の史跡いづこもガイドゐて感動きはまるそのおもてなし

 

 

 

伴 侶   「うた新聞」H2811月号より転載

 

 

 

胃腸心肺次次病みて誘発の因を報いと知ればうべなふ

 

癌病むはこれも命運新たなる伴侶と思ひその歩に合はす

 

外見でわからなぬ病の苦しさを幾度言へどひとはおぼへず

 

 

 

癌で胃の全摘手術を受けてから病と闘う意識を捨てた。その後も喉頭癌・大腸腫瘍・腸閉塞、心不全や肺気腫・間質性肺炎・リュウマチなど。戦って勝てるわけがない。伴侶としてお付き合いして行こうと思っている。

 

 

 私利私欲  H28.10「埼玉歌人」第94号より転載

 

 

 

 妻沼聖天様(しやうでんさま)近くに行けばいつの日も私利と私欲にさい銭投ず

 

 ハシブトの鴉ガ鳴かふが鳴くまひが予約診療なれば出掛ける

 

 右や左にまた離りては寄り立ちしやがみ写真家一樹を百態に撮る

 

 

特集「いたづきの歌」  「うた新聞」H2811月号より転載

 

伴 侶  

 

胃腸心肺次次病みて誘発の因を報いと知ればうべなふ
癌病むはこれも命運新たなる伴侶と思ひその歩に合はす 
外見でわからなぬ病の苦しさを幾度言へどひとはおぼへず 

 

 癌で胃の全摘手術を受けてから病と闘う意識を捨てた。その後も喉頭癌・大腸腫瘍・腸閉塞、心不全や肺気腫・間質性肺炎・リュウマチなど。戦って勝てるわけがない。伴侶としてお付き合いして行こうと思っている。

笛吹きケトル        『短歌往来』平成28年8月号より転載

 

 自衛隊海外派兵の傲慢さ笛吹きケトル誰か止めてよ

 八月の庭石の上にあらはれし蜥蜴はわれに目配せをせり

 外交に稚拙な総理アメリカの目目歯歯戦略の尻馬に乗る

 炊きたての米の()の味試食(ため)したるインドの人の満面の笑み

 いく筋もの香たき花と水をもて年齢(とし)さだまりしものを慰霊(なぐさ)

 宗教宗派民族不問の呼びかけは霊園広告にしてこの世は不穏

 抵抗のシュプレヒコール波立てどうねりとならず(ふね)をゆかせり

 

 

い の ち        「短研研究」H285月号より転載  

塵労(ぢんらう)のこころ濯がれし日の常にわれ梳きやりき三毛のミミの身

ミミと我らこころ添ひつつ添はれつつ十九年間ともに生き来し

逝くはうも逝かせる方もなんとなく納得づくのやふに過ぎゆく

横たはる身はそのままに悲鳴にも似たるひとこゑ啼きてしづもる

シャベルもて小石除けつつ掘りし穴にひとつのいのち土に覆へり

死をもちてなべては薄れゆくつねに繋がりとして石ひとつ置く

人間にかんさんすれば九十五歳 獣医よりの言葉を妻繰り返す


 

あんをんと     「短歌」 H28年2月号より転載

 

 

 

早暁の畑に日日を起こしたる母と子ありき戦ののち

 

あんをんとさう安穏と生き来しを七十四歳悪怯れもせず

 

ワンクリックで(おとな)ひ来たる『わたしはマララ』揺らぐ大人の表情を見す

 

行動より生れし言葉言ふときのマララ・ユスフザイ眼鋭し

 

タリバンにもテロリストにも教育をと叫ぶ少女の齢十六歳(じふろく)

 

一冊の本一本のペンの力を信じゐる少女の言葉吾を励ます

 

この(あした)味噌汁の香の広がれりそれだけで今日は人を愛せる

 

 

祈事    「沙羅」H28年1月号より転載

 

妹に意地悪されし姉が泣く幼き者は幼きなりに

幼らは御節(おせち)の席に着かむとし教へもせぬに椅子奪ひ合

熊谷は猫の(おうち)菖蒲町(しやうぶ)は犬の(おうち)と幼らは(ぢぢ)(ばば)の家を呼び(わ)

たかむらのふくら雀とたはむれて二〇一六年の歳旦を()

祈事(ねぎごと)は家族も世界もひつくるめ心に秘めしひとつこととす