ここは、結社誌「作風」の頁です

「作風」は、昭和21年に大野誠夫により創刊された短歌雑誌です。

大野は昭和59年に逝去。

現在は、私が「作風社」代表、歌誌「作風」の編集・発行人になっています。

この頁には、取りあえず 私の作品を主体に掲載します。

腸閉塞     「作風」――29年1月号より転載

 

しほさゐの大洋に遠くせういんの裏山もなき元朝の鄙(ひな)

 

初詣には参道の店にも施しをとの母の教へに甘酒を飲む

 

さいたんのさ庭にありて深深(しんしん)と世情の寒さにわが身の慄(ふる)

 

妻沼聖天山(しやうでんさま)の近くに来ればいつの日も私利と私欲に賽銭投ず

 

さい銭は二十五円と決めてゐて出かける前から用意してをく

 

氏神様のめぐりに植ゑし吉祥草しだいに衰へいつしかに消ゆ

 

想定外の事とは言へど腸閉塞も四度目ともなれば心得てをり

 

蠟梅を愛でに行く道の辺ひそやかに薔薇は小さきくれなゐ掲ぐ

 

 

 

題詠「野」   継子の尻拭ひ――29年1月号より転載

 

野を拓(ひら)き奈良新田と名付けたる祖のこころいき地名に遺(のこ)

 

荒れし野に生ふるママコノシリヌグヒ薄紫の結果を生ず

 

小学校へつづく野みちをぶつた切り農免道路やバイパス通る

 

取り敢へず――「作風」H2812月号より転載

 

一本のペンの力を信じゐる少女のもてるを吾は失ふ

 

殺さなければ殺される スマホゲームの裏世界のこと

 

二歳だといふのにスマホ奪ひたり三歳違ひの姉を泣かせて

 

言霊のさきはふ国にいもがらを喰らひしことも今は思ひ出

 

民主主義は時に暴力 常温になりしホットコーヒーを干す

 

食べる前に必須の儀式のありしこと簡易食(ファーストフード)店の椅子に思へり

 

とりあへずが取り敢へずのまま山茶花のうす紅(くれなゐ)の花びらの散る

 

敏子さんの旦那さんですと紹介されこの群れの立つ位置決まる

 

 

 

題詠「鯉」   闇闇たる艦――2812月号より転載

 

新しき葬祭場につくりたる池のかざりに緋鯉泳がす

 

蓮池の葉影花影を縫ふごとく大き真鯉は闇(あん)(あん)たる艦

 

夏色の着物姿の女性来て池(いけ)(ごく)の鯉を浮かびあがらす

 

空母レーガン――「作風」H2811月号より転載

 

一喜せず一憂もせず有効数字七桁といふ株価終値

 

二番線ホームの女性てかがみに素早く眉を描き始めたり

 

三百万人を死に追ひやりし戦犯が薮の中にて七十年潜む

 

「幼児と高齢者」などと年齢を中抜きにして危険語らる

 

髭いつぽん剃り残したる老人性美醜不感症になり始めたる

 

株価高騰ありては浮かぶ友の顔暴落すればなほさらのこと

 

この短歌この当事者に見せ得るや常に問ひつつ詠むことにす

 

横須賀港の原子力空母ロナルド・レーガンを木枯し一号吹き曝す

 

 

 

題詠「影」   黒い影――「作風」H2811月号よれ転載

 

移り来たるひとかたまりの黒き雲庭べの妻を影に包めり

 

たたずめる巨象の影に入りゆき野鳩せはしく啄みはじむ

 

スマホ手に信号待ちの少女ゐて長くひきをりその影黒く

 

 

寒露のうたげ――「作風」H2810月号より転載 

 

有効に使へば長く使はざれば短く終る時は曲者

 

人生は己の命の使い方と還暦過ぎしころより思ふ

 

原発と核爆弾と宗教とやがて手づから人類滅亡さむ

 

瀬や深み所処澱みつつ蛇行して老耄のごとき小川親しも

 

売り言葉買ひ言葉交ふあらそひに入りきて更に油をそそぐ

 

すすと背を伸ばし和服の淑女行く姿のやうに咲けるきちかう

 

冷酒をと言ひはぢめしが熱燗の吾になびける寒露のうたげ

 

鞄の底よりやや文字消えしレシートの出て来て俄に重要なゴミ

 

 

 

題詠「紙」  藁半紙――H2810月号より転載

 

本棚は紙の絶壁二十数本二階にあれば妻近づかず

 

紙の切符に鋏を入れるここの駅 人の失ひ来たるもの多し

 

七十年前の「鶏苑」創刊号二十四頁にて引けば破れる藁半紙なり

 

狭量――「作風」 H289月号より転載 

 

平成のこの日この時のこの心言の葉をもて記すわくわく

 

日記書くを続けて六十有余年今日のこころは絵日記とする

 

美をまとひ素敵をかさね着するやうな人待ち顔の駅頭にあり

 

着物着て鶴のごとくに立つ淑女自信はきれひ自信はゆかし

 

虫の音の静まりゆける季ながら幾たび起る「阿部許すまじ」

 

戦争十法一括採決のテレビ放映見つつ妻との会話の途切る

 

戦争法案参院通過闘ひはこれからと言ひ敗れたる心励ます

 

狭量を照らされつつも他人さまの歌集を夜更けに読みて尽きざる

 

 

 

題詠「楽」 干戈無用に――H289月号より転載

 

雪の山と温泉楽しむ日本猿を南の国の人ら観に来し

 

遊園に犬や兎との触れ合ひを楽しむ孫ら干戈無用に

 

楽しかつたかと孫に尋ねしが返されて楽しかつたと妻の答ふも

 

 

雉子――「作風」H28年8月号より転載

 

体験の要なきひとつに日米韓合同軍事演習のあり

 

夏ぞらに入道雲の起ちあがり残る命の使ひかた問ふ

 

電車内前も左右もスマホ繰()る壮盛(さうせい)男女われは用ひず

 

あやふややあやまちあまた含みつつ思ひ出話美しくなる

 

緩やかに流るる時を踏みしめて朝な朝なに雉子(きぎす)あらはる

 

敵失に乗じて勝ちに出来ぬこと縁台将棋も後の悔いなる

 

世界の原子爆弾数一万六千発知つてゐながら知らざるそぶり

 

食べるにも皮を剝くにもわが手には曲りほどよき比国のバナナ

 

 

 

題詠「蓮」  蓮のうてな――「作風」H288月号より転載

 

この星は分かれし人種に争へり世界の蓮華咲かすこの池

 

不忍池(しのばず)のほとりに立てば誠夫師や蓮のうてなの阿弥陀立像

 

二人して並び撮りたる季も過ぎて敗荷の影に浮かぶうろくづ